アカデミー賞受賞「パラサイト 半地下の家族」 後味がまるでレバーのようだった
アカデミー賞で作品賞など4部門で受賞した「パラサイト 半地下の家族」をさっそく映画館で見た感想を書いていこうと思う。
私が感じた感想はあくまでも映画好きでもなければ、映画に詳しいわけでもない私の感想です。
誰かは忘れたけれど、テレビで韓国は人口5000万人ほどと、日本の半数以下である。その為、韓国は国内ではなく国外へ向けた商売をする。ここ数年のK-popや美容関連商品などをみても、とても売り方が上手だなと感じる。もしかしたら、そういう韓国の上手さみたいなものが、このアカデミー賞受賞を後押ししているのかもしれない。
ネタバレ前に…
私は1・2年に一度は韓国を訪れている。理由は手頃な価格と時間で非日常を体験できるから。
今年、韓国を訪れた時‥
深夜の終電で降りたソウル駅。
駅構内の地下で、目的の出口まで歩いた。
深夜だからなのかは不明だが、お店は何もない。
歩いても歩いても矢印ばかりで目的の出口がない。
結局15分ほどかかり、出口を出ることになったが、その途中駅構内で見た光景が忘れられない。
もう少しで出口から地上へ出られるかというところで、脚を引きずるおじさんがいた。
一緒に歩く友達に言わなくても分かる。「様子がおかしいな、これはあまり見てはいけないな……」と、お互い無言で早歩きをすると、後ろからおじさんが叫んでいた。何を言っているか分からないけど、とても怖かった。
それは私達にむけてなのか、違うのかはわからないが2人の早歩きが少し早くなった。
出口が見えた時、左に伸びる通路に目をやると「村」ができていた。
ここを寝床とする人々が固まり、寝袋のようなものを広げていた。
警備員のような人がその中の1人に笑って話しかける。今日が特別ではないことが分かった。真冬のソウルは氷点下を下回り凍える寒さなのは有名な話。
観光や買い物で訪れる韓国とは違う韓国を見た気がした。
首都ソウルのメイン駅。そこで見た光景は、今回見た「パラサイト 半地下の家族」をリアルに感じる後押しになったのかもしれない。
半地下
韓国では昔朝鮮戦争に備え、防空壕代わりに地下施設を設置するように義務づけたそう。それが時代を経て、安価に賃貸できる【半地下住宅】へと形を変えていったそう。
そしてもう一つ韓国独特の賃貸事情がこの【半地下】へ貧困層を誘導する後押しをする。
韓国では日本の敷金のような部屋を借りる際の「頭金」が高額なのだ。もちろん敷金と同じく返金させられるらしいが、この「頭金」を銀行などから借りて、部屋を借りるのだそう。つまり、「頭金」を支払えない人は部屋を借りられない…。
そして、家賃が安い【半地下】はこの「頭金」も安く、貧困層の多くがこの【半地下】を借りることになるという。
ここまではGoogle情報であり、中には将来の為に【半地下】を敢えて選ぶ若者もいるそうで、おしゃれカフェなどにリノベーションして営業しているお店もあるのであしからず。
【半地下】は人の足元を見て日の当たらない場所で暮らす。カビや湿気、虫などデメリットは多い。そして洪水があれば真っ先に浸水してしまう。日本の貧しい生活の風呂なし共同トイレの4畳半よりもリスキーで、少し切なさも感じてしまう。
そして、そんな【半地下】で暮らす家族のお話。
長くなりましたが、ここからネタバレします………
貧しさから抜け出す方法
この家族は貧しさから抜け出す方法として、あるお金持ちの家族に寄生(パラサイト)するという方法をとります。経歴を詐称し、別人に成りすまし巧妙にある家族の生活へと入り込む。家族全員で連携プレーの様に、家庭教師、絵画の家庭教師、運転手、家政婦…と次々とお金持ちの家に入り込む。
ただそれは華麗に行われるのではない。
元々働いていた運転手や家政婦を追い出し、その座を奪っていく。
とても雑で荒い。それでもスッと入り込めたのは、お金持ちの家族が無知で世間知らずという背景をとても自然に描いているかだと思う。
作品前半、映画館内では何度も笑いがおきた。
それは寄生していく半地下の家族がまるで罪悪感などなく、ゲームをしているかのようだから。それが見ていてとても気持ちが悪かった。
家族全員が犯罪に手を染めていく事を何とも思っていない。それをユーモアたっぷりにコミカルに描き、それを見る映画館の客から笑いがおきる。
お父さんもお母さんも息子も娘も…全員が他人を騙しているという認識はまるでなく、自分たちの腕と話術を見せ合いスゴイだろうとの表情をみせる。
正直ゾッとした。
「これが、半地下で生きる人間、プライドなんてない。常識なんてない。何が悪い?お金ないと生きていけないじゃないか」と言われている気がした。
自分の下にまだ人がいる事に気付く
作品が後半にさしかかる。
物語が急速に加速していく…
家主のいないお金持ちの家(【半地下の家族】が内緒で豪遊中)のインターホンを鳴らし、訪れたのは追い出された[元家政婦]。地下に忘れ物を取りに来たと言うと、地下へと進む[元家政婦]。
地下には[元家政婦]の夫が住んでいたのだ。
借金取りから逃げる夫を、裕福で温かな家庭の家の地下に数年間もかくまっていた。
そこで【半地下のパラサイト家族】は、自分達よりもさらに下がいることを知る。「半」ではなく、その男は「全」地下で数年感も太陽の光を浴びず暮らしていたのだ。
そして、それを知った時の【半地下のパラサイト家族】の父親の表情には少しの笑みと、ここに落ちたくないと感じているような気がした。
人は自分の下にもまだ人がいる事に安心するのかもしれない。それと同時に、ここには行きたくないと思うのかもしれない。今まで自分達が社会的に底辺だと思っていたが、実は社会にすら存在がバレていないその下がいたのだから。
ここから人間の醜さや必死さが全面に出るようになった。
パラサイトして得ている自分達の地位を必死で守ろうとしているように見えた。
何も肝心なセリフは言っていないので、そう感じている私がすさんでいるからかもしれないが、少なくとも私にはそう見えた。
半地下の住人だと思い知る
【半地下のパラサイト家族】の父親は、お金持ちの父親の会話をこっそり聞くことになる。
仕事ぶりを、運転手として余計な事は言わない姿勢を一線を越えてこないと褒めたお金持ちの父親。と、同時に特有の古い雑巾のような匂いな臭いが一線 超えている…と笑った。
このセリフを聞いた【半地下のパラサイト家族】の父親は感じたに違いない。
身なりを整え、別人に成りすまし、まるで【半地下】から抜け出したように錯覚していた。でも匂いは消せなかった。
地下の匂いは彼らに染みついていたのだ。
他人の家に行くと、その家の匂いがあるが、その家の住人は気づかない匂いがある。
しかし、彼らの匂いはそれが古い雑巾のような悪臭だという事。
そして、彼らもまたそんな自分達の匂いに初めて気づかされた。
悪気のない金持ちがこっそり話している。
これほど屈辱的な事はないかもしれない。
追い打ちをかけるように、大雨により町が洪水に見舞われる。
【半地下】の彼らの家は、下水が溢れ汚水で満ちていく。
どんなに別人に成りすましても、【半地下の住人】なのだ。
絶望を感じただろう。
誰も救われない
映画の結末は、誰も救われない結末となった。
泣き、叫び、血が飛び交う。
そしてその事件は社会的に謎のまま葬られていくことになる。
結果、半地下の父親は、全地下へと落ちた。
あの、一瞬見下し、ここには落ちたくないと思ったに違いない日の当たらない場所へと落ちていく。
まとめ
この家族が【半地下】に住んでいたのは、決して働かなかったからではない。
事業に失敗し、働き口を探しても、見つからない。
彼らが、寄生せず【半地下】から抜け出す方法はあったのだろうか。
地道に働いて、抜け出すことが出来るのだろうか。
この映画は、韓国社会の実情をリアルに描いているとしたら、抜け出す方法はないと言われているようで、とても複雑な気持ちになった。
そして貧富の差が地上、半地下、地下と分かりやすく階段のように誰から見ても分かってしまう韓国の社会はとても生々しい。
映画自体はとても作りこまれていて、飽きずに観ることが出来る。
それでも見た後に、ズンと重い物がのしかかったような気分になる。コミカルに描かれてる前編、スリリングに描かれている後編。終わってみれば全てが不気味だった。
食べた後に独特の風味が口の中に残る「後味がレバー」のような映画だった。
きっと私はもう一度この映画を見る事はないだろう‥‥
私はレバーが苦手だから‥‥。